箱根駅伝予選会
正月の風物詩である箱根駅伝ですが、そこにたどり着くためには前回大会のシード校以外は、過酷な予選会を通過しなければなりません。
そんな予選会の中継をみているとよく聞くキーワードが「集団走」。この集団走について、紹介していきたいと思います。これを知ると、予選会が以前にも増して面白くなると思います。
目次
予選会を走る選手のペースはどれくらい?
まずは実際選手がどれくらいのペースで走っているのかを見てみましょう。
1㎞ | 5㎞ | 10㎞ | 15㎞ | 20㎞ | ハーフ | 2020年 総合順位 |
3’00 | 15’00 | 30’00 | 45’00 | 1°00’00 | 1°03’17 | 92位 |
3’03 | 15’15 | 30’30 | 45’45 | 1°01’00 | 1°04’18 | 204位 |
3’05 | 15’25 | 30’50 | 46’15 | 1°01’40 | 1°04’59 | 246位 |
3’07 | 15’35 | 31’10 | 46’45 | 1:02’20 | 1°05’39 | 289位 |
そして、ここ5年間の予選通過大学の平均タイムと10番目の選手のタイムを見てみましょう。
ハーフマラソンで予選会が行われるようになったのは2018年からで、それまではずっと20㎞のレースでした。
予選会開催日 | 総合第10位 | 総合タイム (平均タイム) |
大学内10番目タイム (順位) |
第97回(2020年11月) | 専修大学 | 10°33’59 (1°03’24) 20㎞換算1°00’07 |
1°04’30 (217位) |
第96回(2019年11月) | 中央大学 | 10°56’46 (1°05’41) 20㎞換算1°02’22 |
1°05’54 (197位) |
第95回(2018年10月) この年からハーフ |
山梨学院大 | 10°46’27 (1°04’39) 20㎞換算1°01’20 |
1°05’54 (197位) |
第94回(2017年10月) | 東京国際大 | 10°10’34 (1°01’03) |
1°01’46 (159位) |
第93回(2016年10月) | 日本大 | 10°16’17 (1°01’37) |
1°03’37 (220位) |
第92回(2015年10月) | 上武大 | 10°12’04 (1°01’12) |
1°02’14 (179位) |
第91回(2014年10月) | 創価大 | 10°14’03 (1°01’24) |
1°02’49 (183位) |
そしてもう一つ、予選通過大学と次点の大学のタイム差はこちらです。
11位大学 | 10位とのタイム差 | 一人当たり | |
第97回(2020年11月) | 筑波大学 10°34’17 |
18秒 | 1秒8 |
第96回(2019年11月) | 麗澤大学 10°57’12 |
26秒 | 2秒6 |
第95回(2018年10月) この年からハーフ |
上武大 10°46’51 |
24秒 | 2秒4 |
第94回(2017年10月) | 日本大 10°12’05 |
1分31秒 | 9秒1 |
第93回(2016年10月) | 中央大 10°17’01 |
44秒 | 4秒4 |
第92回(2015年10月) | 国士舘大 10°12’14 |
10秒 | 1秒0 |
第91回(2014年10月) | 東京農業大 10°14’52 |
49秒 | 4秒9 |
ご覧の通り、毎年一人あたり数秒のタイム差で出場できるかできないかの境目になっています。
通常のハーフマラソンは、個人レースのため選手それぞれがそれぞれのペースで勝負するのですが、一人当たり数秒の差を埋めるためには失速する選手を多く出すようなレースはできません。そのため、各大学は1秒でも速くフィニッシュできるように戦略をたてるのです。
「集団走」とは
集団で走ると速くなる?
「集団走」といってもただ単にチームが集まって一緒に走っていればいいわけではありません。前出の表の通り、箱根駅伝本戦出場を目指すなら、少しでもタイムを縮めるのが目的でしょう。
ですから、速く走れる選手がわざわざ遅い選手と一緒に走る必要もないです。少しでもタイムを稼いで前で走ってくれた方が総合タイム的にはよいはずですね。
ではなぜ集団走をするのでしょうか。
同じペースで走り続けている方が楽に走ることができる!
長距離を走る時、最初速いペースで走って徐々にペースを落として、ラストスパートでもう一度ペースを上げるという走り方をされる人は多いと思いますが、トップランナーは同じペースで走り続けているほうが、結果的には速く走ることができます。
たとえば同じ5㎞15分で走る選手がいたとします。
A君は1㎞ごとに
2分50秒ー2分55秒ー3分05秒ー3分15分ー3分00秒 で合計15分
B君は1㎞ごとに
3分00秒ー3分00秒ー3分00秒ー3分00秒ー3分00秒 で合計15分
という2人の選手がいるとします。極端な例ですが、これがより長いレースになったときにフィニッシュタイムがどう変化するか想像ができますか?
A君のほうがどんどん落ちていきますが、B君のほうはある程度同じペースを保ちながら走ることができるでしょう。
仮に20㎞を61分で走る場合、1㎞あたりの時間は3分03秒です。このタイムで確実に走りたければ、速く入って徐々にペースを落とすよりも、1㎞3分03秒の一定のペースで走り続けたほうが過度な負荷をかけずに済むのでよいのだと思います。
人の後ろについて走ると、楽に走ることができる!
一般的に、ランナーは人の後ろについて走ったほうが先頭を引っ張って走っているよりも楽に走ることができます。
練習なので集団で走っている実業団や大学の選手たちも、人の後ろにつくことで自分の力を温存しながら走ることを経験しています。
ただ、単純に集団といっても、レースともなると集団内での駆け引きなどが起こります。それに巻き込まれてしまうと余計な力を使ってしまい、減速の原因ともなってしまします。
またペースを気にしたり相手を気にして走ると頭を使いますが、脳もたくさんの体のエネルギーを使います。考えすぎて走る体力を消耗してしまうなんてことも起こらないとは限りません。
「集団走」の意味は
ここまで、一定のペースで人の後ろについて走ると走りやすいということがわかってもらえたでしょうか。
一人一人に十分な力があれば、それぞれが勝手に走っても好タイムを出して本戦出場をなしえることができるでしょう。2018年10月の予選会では、それまでの20㎞換算で計算すると、全員が60分を切るという驚異的な記録をだした駒沢大学ほどになると、予選会自体が本戦メンバーへの生き残りですから、部内での激しい競争そしながらでも全員がタイムを出せるのでしょう。
しかしながら出場ぎりぎりの大学は、エースが貯金するだけでなく、8番目・9番目・10番目の選手を速くフィニッシュさせることも重要になってきます。
そのような選手たちを、確実に走らせるために、集団で一定のペースを作り、人の後ろで楽に走らせてペースを落としにくくしてあげられたら、全体の底上げができると思いませんか?
そのために「集団走」を利用するところが多いのです。
前半の30秒が後半の60秒になる!
ここでベストタイムが61分前後の選手がいたとしましょう。この選手は1㎞3分03秒の一定のペースで走れば、大体いつでも61分前後で走ることができるでしょう。
ところが前半の10㎞を30分00秒で走ってしまうと(たまにそのまま走り切れる選手もいますが)、だいたいは後半落ちてしまい、31分30秒以上かかってしまうことがよくあります。
俗にいうオーバーペースです。
前半イーブンペースよりも30秒速く入ったために、後半はイーブンペースよりも60秒遅くなる。すなわち全体では30秒タイムを落としてしまう。こういうことがよく起こるのです。
前出の表のように、一人10秒タイムを落としてしまったら10人で100秒、すなわち1分40秒も落としてしまい、致命的なミスになってしますから、オーバーペースによる全体のペースダウンはとても怖いです。
特に予選会は最初が直線の平らなコースなので、スピードが上がってオーバーペースになりやすいでしょう。
それを防ぐためにも、集団でペースを保ちながら走る「集団走」が役立てられることがあります。
集団走を用いた戦略
エース
だいたいどこの大学でも、エースと呼ばれるチームを引っ張る選手が何人かいると思います。この選手たちはタイムの貯金を作ってもらい人たちです。
ですから、よりレースの前の方にいて、一秒でも速くフィニッシュをできるように頑張ってもらいたいですね。
ペースメーカー
「集団走」の中で、決められた一定のペースで集団を引っ張る選手のことです。速くなりがちら予選会の中で、しっかりと自分のペースを作っていくことができる選手が必要となります。
そんなペースを一定にして走ることができるの?という疑問があると思いますが、TOPの選手になると400mを70秒、1㎞2分55秒で走れと言われると、誤差1秒前後では時計が無くても走ることができると言われています。
体内時計とも呼ばれるものでしょうか。それぐらいのペース作りが可能だそうです。
ただし、それがこのレベルでできるためには、例えば61分ちょうどで走るためのペースメーカーなら60分30秒ぐらいのベストがないと、ペースメーカー自身が落ちてしまう可能性もあります。
集団の中について、最後のために力を温存する人
ペースメーカーがもしいたら(作れたら)、あとはチーム内でも力のない選手、少しでもタイムを落とさないように頑張ってもらいたい選手たちに自分のレースではなく、ペースメーカーの後ろについて、じっと我慢して走ることをさせます。そうすると、後半の最後の方まで体力を保ちながら走っていられるので、ラスト3㎞以降自分の力を開放して、タイムの押し上げを図ることができたりします。
前半は慌てず(何も考えず)ついていくだけで十分に体力を温存し、ラストで発揮することができれば、これほど力になることはないです。
前半オーバーペースだった人たちは最後に失速して、どんどん抜かれることも予想ができてしまいますね。
戦略紹介
自由走
個々の選手の力が他の大学に比べて圧倒的にあるのであれば、12人の選手が自由に走ることが可能です。本選でチーム内の競争に勝つために、予選会でチームメイトと勝負なんてことができるのは、相当な力が必要です。
12人で集団走
誰一人欠けることなく、最後まで集団で走り切って、設定タイム通りに走る戦法です。ただ、他大学がもっと速い設定で走り切ってしまうと、総合タイムで11番目なんてこともあるかもしれません。
3つの集団走
チーム内に力差があるとき、似たような力の選手ごとに分けて、3人~4人の集団走をする戦法です。予選会を見ていると、これぐらいの人数ごとに分かれているユニフォームをよく見かけるのではないでしょうか。
集団を引っ張る選手が集団の数だけ必要になるので、ペースメーカーの養成が予選突破のカギになりそうですね。
エース+集団走
貯金を作ることができる力のあるエース他数名を先頭付近で自由に走らせて貯金を作り、力がぎりぎりの選手は集団につけて力を温存しながら、ラスト5㎞をがんばらせる戦法です。
強力なペースメーカーがいれば、総合記録を押し上げやすい戦法かもしれませんね。
まとめ
予選会の戦略としての「集団走」、いかがでしたでしょうか。
気を付けないといけないのは、「集団走」をしている集団自体がオーバーペースになると、最後に失速してしまうことです。
TV観戦で見る方はぜひ、どれくらいで5㎞、10㎞を通過しているか観察してみてください。
よっぽど力のある大学ならともかく、本選出場がぎりぎりの大学が、5㎞の10人目通過が15分を切っていたり、10㎞を30分を切って走っていた場合、最後の5㎞でスピードががたっと落ちてしまって、大逆転されるなんてことが十分おこります。
今年はそのあたりの10人目通過タイムに注目して観戦されてはどうでしょうか。
最後まで読んでいただいてありがとうございました。